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社会的パフォーマンスと財務的パフォーマンスはトレードオフなのか?~マイクロファイナンスファンドへの資金提供の意義 その②~

 

社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない?

先日、クラウドクレジットはペルーマイクロファイナンス支援ファンド1号 を発売致しましたが、期待利回りは2.5%と低めになっております。これは社会的リターンを狙っている為ですが、ここで一つ疑問が浮かびます。

社会的リターンを狙ったファンドは利回りが低くなってしまうのでしょうか?
つまり、「社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない」のでしょうか?

この記事では、この問題について少し厳密に考えてみたいと思います。

 

 

「社会の為になっているから儲かる」が経済学の基本的な考え方

「社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない」
この考え方は、(暗黙のうちに)受け入れられているかもしれませんが、経済学、ビジネスの基本的な考え方とは相いれない考え方の様に思われます。
 
何故なら、経済学では「ビジネスは社会にとって有意義なモノやサービスを提供し、その対価として利益を得るのだから、利益を沢山得ているということは社会にとって大きな意義を提供している」と考えるからです。
簡単な例で考えてみましょう。
 
あなたが自動販売機で缶コーヒーを100円で買うとします。その時、あなたは、その缶コーヒーに100円の価値があると思うから買うわけです。一方で缶コーヒーを販売するA社は100円で売って利益が出ると思うから売るわけですね。ここにWin-Winの関係が成立しています。缶コーヒーを買ったあなたも、売ったA社も嬉しい。これが「価値」です。
 
なので、A社は缶コーヒーを売れば売る程「価値」を提供していることになります。一方で、A社は缶コーヒーを売れば売る程、儲かります。つまり、缶コーヒーが売れれば売れる程、A社は社会に対して価値を提供しているという事です。
 
(この「価値」の事を経済学では「付加価値」と言います。経済成長の指標として使われているGDP(国内総生産)は、この付加価値の合計です。上の様なWin-Winの取引が沢山行われ、「付加価値」が積みあがっていくと、GDPが上がり、「経済が成長している!」となるわけですね。)
 
つまり、上の例では、「社会の為になっているから金銭的リターンが低い」のでなく、「社会の為になっているから金銭的リターンが高い」のです。
 

 

 

現実ではそれは必ずしも成り立たない?
 

さて、では、全てのビジネスにおいてこの「社会の為になっているから金銭的リターンが高い」という考え方は成り立つのでしょうか?
 
おそらくそうではないでしょう。
 
少し過激な例を考えてみましょう。麻薬の売買です。
先程のコーヒーの部分をそっくり「麻薬」に置き換えてみます。
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あなたが麻薬を100円で買うとします。その時、あなたは、その麻薬に100円の価値があると思うから買うわけです。一方で麻薬を販売するB社は100円で売って利益が出ると思うから売るわけですね。ここにWin-Winの関係が成立しています。麻薬を買ったあなたも、売ったB社も嬉しい。これが「価値」です。
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相当ヤバい話になってしまいましたね。笑 これが成り立たない、というのは多くの人にご納得頂けるのではないでしょうか?
(*ちなみに、これが成り立つ!という過激な経済学者も中にはいるようです。。。)

 

いやさすがにそれは極端だよ、麻薬は違法だから、という意見もあるかもしれません。それでは「麻薬」を「缶ビール」に置き換えてみてはどうでしょう?
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あなたが缶ビールを100円で買うとします。その時、あなたは、その缶ビールに100円の価値があると思うから買うわけです。一方で缶ビールを販売するC社は100円で売って利益が出ると思うから売るわけですね。ここにWin-Winの関係が成立しています。缶ビールを買ったあなたも、売ったC社も嬉しい。これが「価値」です。
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どうでしょう?微妙になってきましたか?
一見問題ない主張のようにも見えますが、ビールが売れれば売れる程C社は社会に価値を提供していることになるのでしょうか?必ずしもそうではないかもしれません。ビールの消費量が増えればアルコール中毒になってしまう人も増えてしまうかもしれません。飲みすぎで健康を害してしまう人もいるかもしれません。未成年の飲酒が売り上げに貢献しているのかもしれません。
 
なので、経済学の原則にあるように、「社会の為になっているから金銭的リターンが高い」というのは必ずしも成り立たないかもしれません。

 

 

 

それでいいのか?

上の様に考えると、「社会の為になっているから金銭的リターンが高い」というのは必ずしも成り立たない、ということになり、「社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない」という主張はある程度成り立ちそうです。
 
しかし、それが社会の理想の姿でしょうか?
そうではないのではないでしょうか?
 
社会の為になるビジネスを行う→その商品やサービスがよく売れる→儲かる→その儲けを使って更に社会の為になるビジネスを行う→(・・・以下同様)
という好循環が生まれるのが理想ではないでしょうか?
 
この好循環を生み出す上で重要になってくるのが、公的機関の役割です。

 

公的機関の役割:情報の非対称性を解消する

 
「社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない」という状況の原因の一つに、消費者がその商品の事についてよく知らない、ということが考えられます。例えば、麻薬やビールの例で考えると、麻薬やビールに中毒性や健康被害の可能性があることを消費者が知らないと、目前の快感に目を奪われて消費者は麻薬やビールをたくさん買ってしまう、ということになります。

 

これを経済学の用語で「情報の非対称性」と呼びます。「情報の非対称性」があると、消費者は商品を購入する際にその消費行動がどのような結果をもたらすのかきちんと判断できません。

 

同じように、投資家も、ある会社に投資する際にその会社がどのような商品を作っているのかをきちんと知らないと、ちゃんとした投資の意思決定ができません。消費者の為にならない商品を作っている会社に投資してしまうことになったりします。
そこで、政府や国際機関などの公的機関の出番です。

 

公的機関が、ある商品を作っている会社がきちんと消費者の為になるような生産活動を行っているか、顧客の権利を侵害していないか、投資家に対して事業内容をきちんと説明しているか、というようなことを審査して公開することによって、消費者や投資家がその会社の事をよりよく知ることができるようになります。経済学的に言えば、情報の非対称性が解消される、ということです。

 

ビールに「これはお酒です」というマークを出させたり、タバコの箱に「タバコは健康に悪影響を与えます」みたいな文言を付け加えるのを義務とするのもこれにあたるでしょう。
また、上場会社に有価証券報告書の提出を義務付けて投資家に対して適切な事業内容の説明をさせるのも同じです。

 

こうして、「情報の非対称性」をできる限りなくすと、まず、消費者が商品を購入する際に、その購買行動が自分の為になるのかを判断できるようになります。アルコールに中毒性があることを知っていることによって、多量の飲酒を控えるかもしれません。また、投資家も、未成年に対してお酒を売っている会社には投資しない、等、「社会の為に役に立っている」会社を見抜き、そのような会社だけに投資することができます。

 

そうすると、社会の為になっている会社には投資家からお金が集まり、そのお金を使ってより社会にとって良い商品を開発し、消費者がそれをきちんと知った上で購入し、会社の利益があがる、という好循環が生まれます。

 

会社の利益が上がれば、投資家に分配することができるので、結果的に投資家への利回りも増えます。

 

 

マイクロファイナンス市場にも同じことが言える

 
さて、ここまで長々と「社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない」のかどうかについて、身近な例を使って少し細かく考えてきました。

 

結論としては、「社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない」場合もあるけれども、理想は「社会の為になっているから金銭的リターンが高い」という状況であり、そうなる為には公的機関が「情報の非対称性」を解消する(消費者や投資家に適切な情報を開示する)取り組みを行うことが大事だよ、ということになりそうです。

 

これをそのままマイクロファイナンスの国際的な市場に当てはめることができます。

 

マイクロファイナンス機関は、投資家からお金を引っ張ってきて、そのお金を少額(マイクロ)に分割して顧客に貸し出す(ファイナンス)わけですが、その時に、情報の非対称性が存在すると、顧客はその貸付サービスが本当に良い貸付サービスなのか判断することが難しくなります。また、投資家も、そのマイクロファイナンス機関が本当に社会の為に良いことをしているのかを判断することが難しくなります。

 

そこで、前回のブログで紹介した 、Universal Standard for Social Performance Management(USSPM)の様なガイドラインを使ってマイクロファイナンス機関が本当に社会に良いサービスを提供しているのかどうかをモニタリングし、MixMarketのようなプラットフォームで情報を公開することによって情報の非対称性をなるべく解消し、「社会の為になっているマイクロファイナンス機関に投資すると金銭的リターンも高くなる」という好循環を創り出そうとしています。

 

(*USSPMを作ったのはSocial Performance Task Force(SPTF)というマイクロファイナンス市場の様々なステークホルダーが集まって作られた非営利組織ですが、フォード財団やスイスの開発協力機構:Swiss Agency for Development and Cooperationが資金を提供し、Oikocreditという民間のマイクロファイナンス投資ファンドやThe Consultative Group to Assist the Poor (CGAP)という世界銀行のトラストファンドが技術協力をして作られた、官民連携のイニシアチブになっています。情報の非対称性を解消する為に、公的機関だけでなく、民間セクターや非営利セクターが協力していることがうかがえます。)

 

参考:
 Universal Standard for Social Performance Management: https://sptf.info/images/usspm%20impl%20guide_english_20141217.pdf
 Oikocredit International: https://www.oikocredit.coop/
 Social Performance Task Force: https://sptf.info/
 The Consultative Group to Assist the Poor: http://www.cgap.org/
 Swiss Agency for Development and Cooperation:https://www.eda.admin.ch/sdc
 Ford Foundation: https://www.fordfoundation.org/

 

 

 

マイクロファイナンスファンドの今後の展望

 
繰り返しになりますが、先日発売したペルーマイクロファイナンスファンド支援ファンド1号は期待利回り2.5%と「社会の為になっているんだから、金銭的リターンは低くても仕方がない」という状況になっているかもしれません。

 

それでも、投資家であるクラウドクレジットが上記の様な「情報の非対称性」を解消する国際的なイニシアチブにのることで、ゆくゆくは「社会の為になっているから金銭的リターンが高い」という世界を創っていくことの一役を担えればと考えています。

 

今後のマイクロファイナンスファンドの動向にご期待頂ければ幸いです。

 


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