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新興国市場成長の為の触媒としてのエクイティクラウドファンディング

2008年の金融危機の最中に生まれたエクイティクラウドファンディングは今、先進国においてメインストリームの投資手段になろうとしています。

 

エクイティクラウドファンディングの市場は現在、イギリス企業が牛耳っていると言っても過言ではありません。2014年にはオンラインでのスタートアップ企業への投資額が約1億3200万ドルに達しました。また、アメリカにおいてSEC(Security and Exchange Commission、証券取引委員会)が否認証投資家(non-accredited investors)のエクイティクラウドファンディング市場への参加を認めた事から、今後アメリカからの資金流入はエクイティクラウドファンディング業界に大きなインパクトをもたらすことになるのは間違いありません。

 

1. 新興国市場におけるエクイティクラウドファンディングの課題

 

このような先進国での成功と共に、エクイティクラウドファンディングは途上国、新興国市場にも活躍の場を広げています。ブラジルはその好例です。ただ、このような金融イノベーションを新興市場に適応させるには多くの課題があります。

 

最も大きな課題は、新興国市場においてはエクイティ、未公開株へ投資するという文化がまだ根付いていない、ということでしょう。しかし、エクイティクラウドファンディングの様な長期的リターンを狙った投資文化は一国の経済成長にとって極めて重要です。

 

ブラジルでは短期的なリターンを求める投資が主流で、それは政府による市場介入の方法や一般投資家の短期的なリターンを優先する傾向にも垣間見られます。このような投資文化は、ブラジルにおけるここ10年間のネガティブな経済状況に強く影響されています。この10年間、ブラジルはハイパーインフレや銀行口座の差押、汚職スキャンダルだけでなく1980年代以降5度の通貨変更という経済状況の激動を経験しています。このような経験によって人々の金融機関、政府、そして経済への信頼は失墜し、投資文化にも悪影響を及ぼしています。このような不信感は、その背景を鑑みれば当然で、人々の間に深く根付いているため、新興国市場の発展の大きな妨げになっています。

 

 

2. 新たな展望

 

このような背景とは裏腹に、エクイティクラウドファンディングは新たな環境で成長の兆しを見せており、それに伴い克服すべき新たな課題も見えてきています。エクイティクラウドファンディングは、先進国におけるアセットクラス(投資先)の一つになる、というよりは、より新興国の地元経済に密着した未公開企業への投資を促すことが期待されています。

エクイティクラウドファンディングという生まれたばかりの投資市場には、この期待に沿う為に克服すべき多くの課題があります。特に透明性とコーポレートガバナンスの視点は欠かせません。エクイティクラウドファンディングという投資形態を成功させる為には、高度な専門性を持った投資プラットフォームと経験豊かな投資チーム、洗練された投資スキームとデューデリジェンス能力が求められます。プラットフォーム側にもこの新たな投資スキームが成長する様に新たなツールや教育プログラムを提供してゆく責任があります。

 

ブラジルにはすでにEQUITYという業界団体があり、エクイティクラウドファンディング市場が成長する素地があります。この業界団体はエクイティクラウドファンディング市場の管理をブラジルの自己規制基準に則って自分達で行える様、規制当局に認可を申請中です。ブラジルの規制当局、CVM (Comissao de Valores Mobiliarios) は最近、2015年後半にエクイティクラウドファンディングに関する意見、要望の公募をすることを発表しました。これを元に、2016年、正式な法規制を制定する予定です。CVMが健全なエクイティクラウドファンディング市場の成長を後押しし、同時に小規模投資家を保護できる様な規制を作る事ができれば、ブラジルにおけるエクイティクラウドファンディングの未来は明るいでしょう。

新興国においてエクイティクラウドファンディングが成功すれば、その国々の経済成長を後押しする機会が目白押しです。新興市場におけるエクイティクラウドファンディングは草の根での地場の企業の資金調達を支え、地場経済からの経済成長を後押しします。こうして、新興国からも世界で戦えるイノベーティブな企業が出てくる事になるでしょう。

もちろん、エクイティクラウドファンディングセクターだけでこういった下からの経済成長を支える事はできません。企業経営における経験値や知識、教育レベルも重要な要素であり、政策担当者や政府は中長期的な視点に立ってこれらの状況を改善してゆく必要があります。これは現在の法制度についても言える事です。現在の法制度は投資家を必ずしも保護できておらず、投資を抑制しています。また、イギリスにおいて成功したように、税制による投資の促進も一般投資家をエクイティクラウドファンディングへ呼び込む重要な施策です。

 

3. 明るい未来

 

このような課題はあるものの、新興国市場におけるエクイティクラウドファンディングの未来は極めて明るいと言って良いでしょう。エクイティクラウドファンディングは今後間違いなくグローバルに展開してゆきます。乗り越えるべき課題はあるものの、この投資手段は新興国への国境を越えた投資を後押しし、今日のスタートアップ企業を明日のマーケットリーダーに変える力を持っています。

 

このような明るい未来を実現するには、新興国市場はまず始めに自国の市場を透明性のある健全なものとし、将来の海外からの資本流入に備えるべきです。また、プラットフォームはこのような流れに対応できるよう、準備を整えてゆく事が大切でしょう。

 

 

 

参考:Equity Crowd Funding as a Catalyst for Development in Emerging Economies

http://www.crowdsourcing.org/editorial/equity-crowdfunding-as-a-catalyst-for-development-in-emerging-economies/50600


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