フィンテックは世の中をよくするのか – その本質とは?金融とテクノロジーについてもう一度考えてみる
ここ数年、日本でもフィンテックという言葉が紙面やネット上を賑わすようになってきました。従来の金融のあり方を変える存在としてフィンテックが注目を集めています。
しかし言葉とは不思議なもので、繰り返されれば繰り返されるほどその本質を問う機会が少なくなるような気がします。「イノベーション」や「ダイバーシティ」の重要性を説く会社は多いものの、「イノベーション」とは何か、「ダイバーシティ」とは何か、その本質について考える機会は多くありません。
そこで、2016年を締めくくるにあたって、「フィンテック」とはそもそも何なのか、その本質について考えてみたいと思います。言うまでもなく、フィンテックは、「ファイナンス=金融」と「テクノロジー=技術」の2つの単語を組み合わせた造語ですので、その2つの言葉を紐解くことでフィンテックの本質に迫ってみます。
ファイナンス=金融=お「金」を「融」通すること
金融の本来の役割は、お「金」を「融」通することです。お金が余っている人が、お金が足りない人にお金を融通するのが金融です。
普段は意識しないかもしれませんが、銀行に預金するという行為も、このお金の融通の一環です。お金が余っている人が銀行に預金をし、そのお金を銀行が(お金の足りていない)企業に貸し出す、というふうに「融通」が行われているわけです。
この観点で少し世界に目を向けてみましょう。現在、世界ではお金が余っている地域とお金が足りない地域がはっきり分かれています。途上国や新興国と呼ばれる国々ではお金が足りておらず、先進国と呼ばれる国々ではお金が余っています。
これは、金利水準から見て取ることができます。下の図をご覧ください。
世界の貸出金利
出典:The World Bank, Lending Interest Rate
この図では、アメリカやヨーロッパ、日本などの先進国では色が薄くなっており、貸出金利が低いのが分かります。一方で、アフリカやラテンアメリカといった地域では貸出金利が高くなっています。
これは、先進国でお金が余っており、途上国、新興国ではお金が足りていないことを示しています。供給が過剰になると価格(=金利)が下がり、逆に需要が高まると価格が上がるからです。
もし健全な競争原理が働いていれば、自然にお金は金利水準が低い地域から高い地域に流れるはずです。貸し手側としては金利が高い方にお金を貸したいと思い、借り手側としては金利が高くてもお金を借りたいと思うからです。こうして需要と供給のギャップは解消され、資本が最適に分配されることになります。
しかし、世界の金融市場ではこれが起きていません。先進国にお金が余っているのに、それがほとんど途上国や新興国に流れず、先進国の中に滞ったままになっているのです。
こうして先進国においてはどんどん資本の供給過剰が進み、金利は下がり、日本やヨーロッパにおいてはマイナス金利が導入されました。外に目を向ければ資金需要がある国(=投資先)はたくさんあるのにもかかわらず。
テクノロジー=技術=物事の実現をサポートするもの
さて、一方で、テクノロジーとは問題を解決してくれるもの、もしくは問題の解決を容易にしてくれるものです。車や電車、飛行機は人の移動をたやすくし、インターネットは情報のやりとりを容易にしました。同じように、テクノロジーはお金の融通を容易にします。
上で説明したように、現在地域によって差のある資金需要を埋める役割を果たしてくれるのがテクノロジーです。以前の記事で、インターネットは「個人間の(=P2P)、小規模だが多数の(=ロングテール)需要と供給を、国境を越えて(=グローバル)つなぐことができる」と書きましたが、それ以外にもテクノロジーはお金の融通、すなわち金融をスムーズにしてくれます。
たとえば、今まで身分証明方法がなかったがために融資を受けることができなかった途上国農村部の人々が、生体認証技術によって身分を証明できるようになってお金を借りられるようになったり、モバイルマネーを活用することで地理的な制約を超えてスムーズに融資ができるようになったりします。
テクノロジーによって世界中でお金の流れがスムーズになり、上で説明したような現在の金融システムの課題(=資金の需給ギャップ)が解決される可能性を秘めています。
テクノロジーによってお金の融通がスムーズになる
フィンテックという言葉を聞くと、何だかとても難しくて複雑というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その本質は、お金を余っているところから足りないところへ流すことを、テクノロジーを使ってスムーズにする、ということに過ぎません。
2016年はイギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生といった、グローバル化を押しとどめようとする力が世界を席巻しました。この流れに乗って、2017年も一時的に反グローバル化の動きが勢いを増す可能性もあります。
また一方では、金融危機等で明らかになったように、資本のグローバル化に伴うネガティブな側面は規制によって制御する必要もあるでしょう。
しかし、テクノロジーがもたらすグローバル化は不可逆なものです。飛行機が人々の国境を越えた移動を促したように、また、インターネットが情報のグローバル化を加速させたように、テクノロジーによってお金の流れがよりグローバル化することはもはや必然です。
国という枠組みを超えたお金のやりとりが身近になる世界は、遅かれ早かれやってくるのです。海外旅行に行くのと同じように海外投資を考えてみてもよいのかもしれません。
Copyright © 2016 投信1 [トウシンワン] | 1からはじめる初心者にやさしい投資信託入門サイト All rights reserved.