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マイクロファイナンスの日本の現状と企業などの取り組みについて

はじめに

マイクロファイナンスとは、貧しい人々に少額の融資を行う金融サービスです。以下の動画の中で、衣料品店を営む女性はミシンの購入によって事業を成長させることができたと話しています。

当社貸付先紹介動画「南部メキシコマイクロファイナンス支援ファンド」シリーズ

当社はかねてより新興国のマイクロファイナンス機関へ投資を行ってきました。近年、SDGsやESG投資に対して人々の関心が高まっていることもあり、マイクロファイナンスを取り巻く環境も変化しているように感じています。日本のマイクロファイナンスの状況について記載していきます。

グラミン銀行について

グラミン銀行の特徴

マイクロファイナンスは、バングラデシュの「グラミン銀行」の成功がきっかけで世界に広く普及することとなりました。日本のマイクロファイナンス機関「グラミン日本」は、グラミン銀行を参考に2018年に設立された団体となります。以下、グラミン銀行の特徴となります。

  • 貧困層に無担保で融資を実施するマイクロファイナンス機関。
  • バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏が1983年に創業。
  • ユヌス氏がバングラデシュの村で貧しい人々にポケットマネーを貸したのが始まり。「グラミン」は「村」の意。
  • 貧困層の人々に無担保で融資を行うことに対して、きちんと返済されるか懐疑的な声もあったものの、返済率は97%と高い水準。
  • 貧困層の自立を支援した功績により、グラミン銀行とユヌス氏は2006年にノーベル平和賞を受賞。

グラミン銀行の返済率が高い理由

グラミン銀行は当初、グループの連帯責任制を採用していました。5人のグループを作り、誰かの返済が滞ると次に待っている人は融資を受けられなくなるというものです。村の結束が強い環境では特に、仲間を裏切れないという心理が返済に繋がると考えられていました。

一方で弊害もあり、1998年、大洪水が発生しやむを得ず多くの借り手からの返済が滞ったことをきっかけにこの制度は見直されました。現在、グループのメンバーの返済を待つようなことはなく、利用者の状況に応じて柔軟に借入ができるようになっていますが、返済率は高い水準を保っています。

貸し手と借り手の信頼関係が返済に繋がっているという見解もあります。グラミン銀行のスタッフは実際に農村を訪問し、定期的に開催されるミーティングで集金しています。そして新たな借入の申請書の受領や意見交換なども行っていますが、直接訪問することにより、借り手の家庭環境や事業の進捗状況なども把握できます。

グラミン銀行の資金調達

マイクロファイナンス機関では、資金の確保も重要な課題となります。貧困層に融資をするためにはマイクロファイナンス機関自身も資金が必要です。

グラミン銀行は当初、国内外からの資金の支援を受けていました。日本のODAもグラミン銀行の発展に寄与しています。一方、貧困状態の人々が自立することが重要であるように、グラミン銀行自身も寄付などに依存しない体制を目指していました。

現在、グラミン銀行は外部からの資金の援助を受けておらず、十分な資金のある銀行となっています。

日本の現状

日本の貧困問題と支援団体

生きることが困難になるような貧困の状態は「絶対的貧困」(1日1.9ドル以下で生活)と呼ばれています。

一方、日本では、場合によっては見た目ではあまり分からないような「相対的貧困」(その国の基準からすると貧困状態)の人が6人に1人と高い割合となっています。「経済格差が子どもの教育格差」「将来の蓄えが少なく不安」といった話題を聞くことも多くなりました。

日本では以下のような団体が、金銭的な支援や就労支援を行っています。「生活が苦しい」「家賃や学費が払えない」「仕事が見つからない」などの相談を受けてサポートをしています。

  • 非営利目的の金融機関や協同組合
  • 生活困窮者の自立を支援するNPO法人やNPOバンク
  • ひとり親、シングルマザーの支援を行っている団体 など

上記の団体の中には、日本に古くからあった相互支援の仕組みを起源としているものもあります。日本でも従来から生活困窮者を支援する取り組みは行われてきました。しかしながら、日本の貧困問題は年々深刻になっているのが現状です。

日本にマイクロファイナンス機関が少ない理由

日本の生活困窮者に支援を行っているマイクロファイナンス機関は「グラミン日本」のみとなります。現在、マイクロファイナンス機関が最も多い地域はバングラデシュなどの南アジアで、アメリカやEU諸国などの先進国にも存在しますが、日本にマイクロファイナンス機関が少ない理由として以下のようなことが考えられます。

  • 日本は銀行口座開設が比較的容易であること。女性は口座の開設ができない国や、移民・難民が銀行口座を持つことが困難な国もあり、このような国ではマイクロファイナンス機関で口座を持つことに意義があるが、日本では同様なことは少ない。
  • 日本では起業よりも雇用されることの方が多いこと。途上国や新興国などでは起業をして生計を立てることが一般的であることも多く、融資が経済的な自立に役立つことも多いが、日本ではスキルを生かして起業することはハードルが高い。
  • 日本には寄付文化があまり浸透していないこと。

マイクロファイナンスの融資は少額であるため、ある程度の利用者がいなければ収益化できないという点も課題になるでしょう。現状としては、マイクロファイナンスの海外のモデルをそのまま日本に適用することは難しいようです。法律や制度も関係するため、様々な方面からのアプローチも必要になりそうです。

企業や団体の取り組み

グラミン日本以外にも、日本でマイクロファイナンスに関わっている企業や団体はあります。以下にいくつかの例を挙げましたが、1つの企業がマイクロファイナンスに関わる複数のサービスを提供していることもあります。

日本の生活困窮者を支援する

先にも述べた通り、グラミン日本はグラミン銀行を参考に設立されたマイクロファイナンス機関になります。以下のような支援を行っています。

  • 働く意欲がある人に、起業や就労のための小口融資を行っている。
  • ともに支える仲間として5人1組の互助グループが形成されている。
  • 融資のほか、稼ぐ力を身につけるためのアドバイスやスキルアップの支援もしている。
  • ビジョンに共感した多くの企業から様々な形でサポートがあり、就労支援なども行われている。

グラミン銀行と同様、貧困状態にある人が自立することを重視しており、そのための1歩を踏み出す機会を提供することをミッションとしています。

寄付金などによる支援

グラミン銀行もそうであったように、成長途中のマイクロファイナンス機関では、資金を確保する手段として外部からの支援の割合が大きくなる傾向があります。マイクロファイナンス機関に対して、寄付金などによる支援を行っている企業もあります。

スキルの提供や就労支援

支援の形は資金の提供だけではありません。ボランティアでスキルの提供や就労支援などを行っている企業もあります。支援をする側にも、自身のスキルを生かし、職場とは違う環境で知見を深めることができるなどのメリットがあります。

海外で事業をする

日本の生活困窮者を支援しているのはグラミン日本のみになりますが、海外でマイクロファイナンスの事業を行っている企業は複数存在します。以下のような例があります。

  • 日本のスタートアップ企業が、海外のマイクロファイナンス機関と提携する。
  • 大手金融機関が、海外の事業の一環としてマイクロファイナンス機関に出資する。
  • 日本人が海外でマイクロファイナンス機関を設立する。

人々に金融サービスを提供するために海外で積極的に活動している企業が、現地で成果を上げている事例もあります。

資金の融資をする

「南部メキシコマイクロファイナンス支援ファンド」シリーズ 貸付先の Avanza 社

寄付金などによる支援は限度があるため、マイクロファイナンス機関の成長段階に応じて、商業的な手段で資金を調達することも必要となります。マイクロファイナンス機関自身が融資を受けることも、資金調達の手段の1つとなります。

当社では、個人の投資家などから投資いただいたお金を新興国のマイクロファイナンス機関などに届け、返済いただいたお金を投資家に分配しています。

    現地の銀行などは中小規模のマイクロファイナンス機関には融資を行っていないことも多く、また国の状況が変わると融資がストップしてしまうこともあります。そのような国のマイクロファイナンス機関にとって、日本などから安定的に資金を調達することはメリットがあります。

    IT技術の提供

    • ITの導入により業務の効率化やコスト削減を図る。
    • 融資を受けたい人に返済能力があるか、審査を行うことができるシステムを開発、提供する。

    グラミン銀行では、融資希望者の元にスタッフが足を運び審査をしています。そのおかげで信頼関係が築かれる一方で、コストはかかります。グループを形成しミーティングの場でまとめて集金などをするのは、一軒ずつ訪問するよりもコストがかからないからという理由もあります。

    ITの審査によってコスト削減が見込まれるほか、より多くの人々にマイクロファイナンスのサービスを提供できる可能性もあります。例えば、決済サービスの利用履歴や購買行動の分析によって返済能力を判定するシステムなどがあり、通常の銀行では審査の対象にならないような人であっても、このようなシステムで返済能力が認められると融資を開始することができます。

    今後の展望

    SDGsとマイクロファイナンス

    SDGsの17の目標の1つ目「貧困をなくそう」のターゲット(1.4)には、以下のように記載されています。

    『2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。』

    By 2030, ensure that all men and women, in particular the poor and the vulnerable, have equal rights to economic resources, as well as access to basic services, ownership and control over land and other forms of property, inheritance, natural resources, appropriate new technology and financial services, including microfinance

    マイクロファイナンスを通じて金融サービスを利用できる人が増加することはすなわち、貧困をなくすことに繋がるとSDGsのターゲットからも伺えます。

    利益も社会貢献も

    SDGsでは、企業がビジネスによって社会課題の解決に取り組むことが期待されています。一方、SDGsよりも前から行われてきた「CSR(企業の社会的責任)」は、社会貢献活動によって長期的には企業にも良い影響がもたらされると考えられていますが、直接的な利益は求めていません。

    SDGsの普及により、近年「ソーシャルボンド」の発行が拡大しています。ソーシャルボンドとは、企業などが発行する社会的課題の解決に繋がる債券のことです。

    2022年4月、株式会社丸井グループが会員向けにソーシャルボンドを発行したところ、予定額約1億円に対し約20億円分の抽選申し込みがありました。今回投資いただいたお金は、海外でマイクロファイナンスの事業を展開する「五常・アンド・カンパニー」と当社を通じて、マイクロファイナンス機関に届けられます。

    申込者の中には、資産運用ができて社会貢献にも繋がることに価値を感じた一方で、マイクロファイナンスのことは知らなかったという方もいるのではないでしょうか。今後、魅力的な金融商品に投資をしたら実はマイクロファイナンス機関の支援になっていた、ということも増えてくるかも知れません。

    働き方や環境の変化

    若い世代は特に、社会問題を疑問に思い行動するエネルギーを持っています。最近では学校教育でもSDGsが取り入れられていますが、学校から当社に対して、数件ではありますがSDGsについてお問い合わせもいただいています。

    また、テレワークの普及など働き方に変化がありました。当社でも自宅にいる社員が、WEB会議を利用して新興国の企業とミーティングをすることも日常となっています。

    熱意を持って、あるいはできる範囲で、日本でもマイクロファイナンスに関わる人が増えていくことを期待しています。

    おわりに

    クラウドクレジットでは、資金を必要としている新興国などに融資を行っています。経済的リターンと社会的リターンの両立を目指しており、登録者は1万円から投資することができます。日本の資金が世界の成長に貢献する「世界を繋ぐ金融」の実現を目指しています。

    クラウドクレジットについて

    参考文献

    菅 正広(2008)『マイクロファイナンスのすすめ―貧困・格差を変えるビジネスモデル』東洋経済新報社

    菅 正広(2014)『貧困克服への挑戦 構想 グラミン日本 グラミン・アメリカの実践から学ぶ先進国型マイクロファイナンス』明石書店

    慎 泰俊(2012)『ソーシャルファイナンス革命  世界を変えるお金の集め方』技術評論社

    https://grameen.jp/

    https://gojo.co/landing-page-jp

    https://hakki-africa.com/

    https://www.mji-e.com/

    https://www.sbigroup.co.jp/news/2022/0113_12808.html

    https://www.living-in-peace.org/

    https://grameenbank.org/data-and-report/monthly-report-05-2022-issue-509-in-usd/

    https://www.convergences.org/en/119115/

    https://www.ss-k.jp/

    https://www.greencoop.or.jp/saisei/

    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002941.000003860.html

    https://www.shinyokumiai.or.jp/credit_cooperative/history.html

    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/annai/pdfs/g_bank_1.pdf


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