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人生考え始め世代の資産運用術(第二回) ~資産価値への投資と信用投資の絶対に交わらないリスク・リターンの考え方~

ソーシャルレンディングとは、近年注目を浴びている新たな投資手法、資産運用手法です。日々、新たな資金の流れを探し求めるお客様からの問い合わせがあり、業界関係者もビジネスの仕組み作りに精力的に情報収集を行っています。
そのような金融業の先端を走るソーシャルレンディング業界にあって、海外投資を生業とするクラウドクレジットの「中の人」である著者が、現代日本における資産運用のあり方について、全3回にわたり若干の考察を紹介していくシリーズの第2回。

中国人投資家にインカムゲイン目的の投資を貶された体験

 
私は前職の投資銀行で2014-16年の間、香港での駐在を命じられて赴任生活を送っておりました。アジアの熱気の中で、様々なエキサイティングな仕事をさせていただいたのですが、その中でも、特に印象的な体験がありました。
湿度が95%を超えた5月のある日、業務の一環で香港市場に上場しているとあるREIT(不動産投資信託)運用会社の機関投資家周りの付き添いをしていました。訪問先は中国本土から出張で香港に来ていたファンドマネージャー。羽振りの良さそうな身なりでニコニコとしていた彼はミーティングをとんでもない一言から始めました。

 

「インカムゲイン目的の投資なんてチキン野郎(臆病者)がやるもんだ」
 
 
このミーティングをアレンジした僕とセールス担当は暑さも忘れて冷や汗を流しました。「上場REITなんでインカムゲインだけではなくキャピタルゲインも取れますよ」などと気の利いたことも言えず、ただただ押し黙って時が過ぎるのを待っていたことを思い出します。

 

折しもタイミングは中国株バブル真っ只中。上海A株市場は連日高値を更新していました。どんな銘柄でも買えば上がる相場となっており、上昇余地がより大きそうだと表示価格が安い株ほど好まれていた有様です。そんな市場の状況で彼が嫌った「インカムゲイン目当ての投資」、それはいったいどのような投資なのでしょうか?そして、1ヶ月も経たずに中国株バブルが淡くも弾けた瞬間、彼の投資哲学は彼自身のキャリアとともに脆くも散ってしまったのはなぜなのでしょうか?(当該機関投資家は数ヶ月後にホームページごと消え去りました)

 

キャピタルゲインとインカムゲイン

 
教科書を開けば投資による収益は大きく2つに分かれると書かれています。資産価値(価格)の変動による収益であるキャピタルゲイン、資産から生まれる分配や利子による収益であるインカムゲインです。
前者の代表は株式や仮想通貨への投資から得られる収益で、例えば「100円で買ったビットコインが105円で売れれば、5円のキャピタルゲインを得た」と表現されます。後者の代表は債券やローンへの投資から出る収益です。「半年前に買った債券から5円の利払いを受ければ、5円のインカムゲインを得た」と表現されます。両者の投資はその収益を得るためにとっているリスクの性質からして大きく(私に言わせれば根本的に)異なるものです。
キャピタルゲインを得るための投資とは資産の価値(価格)の上昇を期待して行う投資です。例えば株式の購入に際しては、市場環境や企業の成長性に対する期待が持てるかどうかということが判断材料となります。また、価値(価格)変動が収益の源泉なので、「いつ」「いくらで」買うのか、「いつ」「いくらで」売るのかといったことが重要になるので、資産価格の値動きを常に注意している必要があります。

 

他方で、インカムゲインを得るための投資はクレジット(信用)投資と呼ばれ、利子や配当の支払いに関する約束が守られることを期待して行う投資です。例えば債券の購入に際しては、その債券の発行者の返済余力についての健全性や事業継続性が損なわれるような過度なリスクを取っていないか、取ろうとしていないかといった点が判断材料となります。通常、購入時点で「いつ」「いくら」支払いを受けることが出来るのかが決まっているので、このタイプの投資は購入したら基本的には、当初約束された約束が守られるのを待つだけの投資となります。

 

バブルに賭けるその前に!

 
市場というのは原則的に欲望をモチベーションとしたモノとカネの媒介システムですが、時に参加者の欲望の増幅装置となることもあります。17世紀オランダのチューリップバブルを引くまでもなく、参加者の欲望は、時に熱狂を伴って資産価値を跳ね上げ、そして参加者が熱狂に疲れた時、市場はババ抜きゲームのジョーカーを誰に引かせるかのゲーム盤に様変わりします。

 

独断と偏見に基づく推測をすれば、冒頭の中国人投資家は、中国株バブルの熱狂の中でキャピタルゲインを追い求めたのでしょう。彼に取っては期待配当利回り5%(購入価格に対して今後1年間で得られるであろう配当額の割合)といった数字は、1日で20%も価格が上がるような株式を求めていた彼にとっては、「チキン(臆病者)のための投資」に見えたのだと思います。

 

人の熱狂が長くは続かないように、市場の熱狂も永久に続くことは(少なくともこれまでは)ありません。中国人投資家の彼は、おそらく私と面談した時点では「成功」した投資家でしたが、彼を称えるべきはその賢さではなく、その蛮勇にあったのだと思います。ドン・キホーテが風車に突撃するのを称えるが如く、人は彼の勇気を称えるべきなのでしょう。

 

彼がもし●%という数字の多寡だけに注目するのではなく、収益の取り方とリスクの性質に注意を払い、個別の投資の成長性/利益性だけでなく、「資産全体の拡大の持続性」を考えることができたのであれば、もしかしたら、彼との出会いはネガティブな印象をもった強烈な体験となるのではなく、他の優秀な機関投資家が当たり前に採用する至極真っ当な考え方に基づくありふれた出会いとなっていたのかもしれません。

 

 

次回「人生考え始め世代の資産運用術(第三回)~冷静な運用のための商品種類と時期の分散。クレジット投資の活用法~」乞うご期待。

 

 

 

 

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