AIが投資判断をする時代、人間は何をすればいいのか?
AIが活躍する時代には銀行はなくなり、運用担当者の仕事もなくなってしまうかもしれない、ということを前回の記事で書きました。AIが世界中の投資機会に関するビッグデータを分析することで、人間より適切な投資判断ができるようになる可能性が高いからです。
それでは、投資や融資の世界における人間の役割はなくなってしまうのでしょうか?
未来は過去の延長線上にあるのか?
少し話が大きくなりますが、このテーマは、「未来は過去の延長線上にあるのか否か」という問題と関わってきます。「未来が過去の延長線上にある」とは、過去に起きた事象のパターンが未来にそのまま生かせる、ということです。
もしそうであれば、人間がAIに勝てる可能性は少ないでしょう。過去の膨大なデータを分析し、そこからパターンを探り出し、未来に起こることを予測する、という能力において、人間はAIに勝てないからです。なるべく多くの情報を集め、それを分析して合理的に意思決定するというのはAIの得意分野です。
しかし、ここで、2つの問題が出てきます。
問題1:世界はそんなに合理的に動いているのか?
もし、世の中のありとあらゆる情報を集めてきて、それらを全て合理的に分析できるAIがあったとしたら、必ず正しい未来を予測して、最適な投資判断ができるのでしょうか?
19世紀のフランスの数学者であるピエール=シモン・ラプラスは、このような「現時点で世界に存在する全ての情報」を把握できる超越的存在、を仮定しました。これは「ラプラスの悪魔」と呼ばれています。究極のAIのようなもの、と考えればよいかもしれません。
当時主流だったニュートン力学によれば、現時点での原子の位置と運動量を知ることができれば、その後の原子がどう動くのかを計算できます。「ラプラスの悪魔」は、人間の脳内における神経伝達物質を構成する原子の位置と運動量さえも全て把握していると仮定されています。
よって、「ラプラスの悪魔」は、我々人間が未来にどのような意思決定をするかも全て計算できる、ということになります(人間の意思決定も脳内の神経伝達物質の作用の結果と考えられるため)。
つまり、“未来は既に決定している”ということです。これを「決定論」と呼びます。
しかし、20世紀前半から始まった量子力学の分野で、この決定論は揺らぎます。素粒子の世界では、現時点での物質の位置と運動量を知ることができても、次の瞬間の物質の位置と運動量を予測できない、ということが確かになったのです。
これは、ラプラスの悪魔でさえも未来を予測できない、ということを意味します。ミクロの世界では、未来は本質的に不確実なのです。私たちが住むマクロの世界も、ミクロの世界の集まりですから、本質的に未来に何が起こるかは分からない、とも考えられます。
たとえラプラスの悪魔並みの性能を持ったAIが現れても、将来の正確な予測はできないのかもしれません。
問題2:過去の例がないものに関してはどうするのか?
また、問題1で紹介した「決定論」は、多くの読者の皆様の直感にも反するのではないでしょうか?
未来は「決まっている」ものではなく、我々一人一人が意思を持って「決めていく」ものでもあるはずです。AIには、「この企業は合理的に考えれば投資しない方が良いけれども、それでも世の中に対して良いことをしようとしているから、成功してほしいという願いもこめて投資しよう」というような意思決定はできません。
また、スタートアップは、過去に例のない事業をやろうとしている企業です。彼等の事業の将来性は、過去のデータから計ることはできません。過去のデータがないからです。そのような際に、AIは力を発揮できません。
グーグルやマイクロソフト、アップルのような、現在世の中を動かしている巨大企業も、元々はスタートアップです。スタートアップ期における彼等への投資判断は現在に大きな影響を及ぼしていますが、その投資判断にAIが力を発揮できないとなると、AIの未来への影響力も限定的なものなのかもしれません。
まとめ
ここまで説明してきたように、たとえAIがどんなに高度な性能を持ったとしても、人間の役割は消えることはないように思われます。
定量的な分析や、定型化された判断はAIに代替されていくでしょう。しかし、AIには、「我々はこのような社会を望むからこのような企業に頑張ってほしい。だからこの企業に投資しよう」というような意思決定はできません。
我々がどのような社会を望むかは、結局我々が決めるしかありません。投資や融資の意思決定には、少なからず「願い」が込められています。AIが投融資や意思決定の定量的な分析の大部分を担えるようになる未来には、そのような「望ましい社会」を構想できる能力が我々人間には求められるのかもしれません。
参考文献:
『未来に先回りする思考法』 佐藤 航陽(著)
『知性の限界』 高橋 昌一郎(著)
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